見るもの3 神はサイコロを振らない1
見るもの3 神はサイコロを振らない1
「チョコレートは?」
「用意してあるわよ」
「質問をお願い」
「あなたはMichele Causseさんですね?」
「はい・・・独身です」
「そんな事聞いてないわよ(笑)・・・この世に別れを?」
「はい」
「本当に?」
「はい」
「これを飲めば息が途絶えますよ。」
「解ってます」
「本当に?」
「自分の意思ですから」
「では、さようならMichele」
「さようならErika・・・」
「コレ(死)が私の最後の望みなのよ・・・」
「一口か二口飲んで頂戴」
「それだけで良いの?!」
「苦いのよ」
「充分じゃないでしょ!?」
「ええ・・・そうね・・・」
「だったら、一気に飲むわ!」
「やっぱり苦いわね・・・うわあ・・・
動物病院のワンちゃんみたいになっちゃったわね。
最悪・・・泣いたりヨダレ垂らしちゃったりするかしらね・・・」
「ティッシュ頂戴。ヨダレでブラウスが・・・」
「ヨダレ垂らしちゃったら拭いてね。格好悪いのはイヤなのよ・・・」
「わかったわ」
「不味いわねえコレ・・・チョコレート頂戴・・・」
「さようなら、Michele」
「ありがとうArthur!あなたは本当に良い人だった・・・。
そんなに知り合えてないけど、もう時間が無いわね・・・
後どれ位で眠りに落ちるのかしら・・・」
「1分以内よ」
「ええ?!じゃあNikkie、あなたの事を想いながら死ぬわ・・・
泣かないで・・・そろそろ逝く事にするわ。
これが望みだったのよ
解ってくれるわよね?いろいろと試してきたし・・・そろそろ・・・」
「イヤだよ・・・」
「酷い味だわコレ・・・もっとチョコレート・・・はあ・・・眠くなってきた・・・
Nikkie、手を・・・もう寝ちゃいそうよ・・・本当に不味いわコレ!」
「全部飲んじゃったんだもの・・・」
「まあ良いわ・・・あー不味い・・・チョコレートちょうだい」
「深呼吸するのよ。ふかーく・・・ダメよっ、もう食べないで!」
「なんだか眠いわ・・・すごーく良い気持ちなのよ・・・」
「良いわ・・・そうよ・・・目をそっと閉じて・・・大きな雲に乗って・・・」
現在オランダ、ベルギー、スイス、アメリカの中の4州で
安楽死が認められている
アインシュタインは神はサイコロを振らないと言ったが
人はサイコロを振る 神にはなれなかったから
疲れた体は心すら支えられなくなる
そして支えられなくなった心から最後のサイコロがこぼれ落ちる
そこで出たサイコロの目は何だったんだろう
彼女が最後に大きな雲に乗ってと言ったが
彼女はそこで何を見たのか
Michele Causse(1936-2010) フランス人 レズビアン・理論家・翻訳家・作家