殺しの美学15 エヴァン デェ リオン
殺しの美学15 エヴァン デェ リオン
Cさん
人里離れた道路には 街灯もなく 民家もなく すれ違う車もない
そんな暗い夜の道を走る時 闇がこちらを見ている
時速70キロ
うっすらと光る月明りが ぼんやりと人影を映す
ヘッドライトに現れた足元
・・・・女
グニャっと腰から折れ曲がり上半身はボンネットに叩きつけられ
それは反動で吹っ飛ぶ
目や足 ハンドルや座席 色んな所から伝わる衝撃
跳ねられる瞬間のこわばった女の顔
ヘッドライトの光に映し出される横たわった女
二人は徐々に青ざめていく
Cは車を降り女性に近づき 死なないでくれと祈る様に顔を覗き込む
動く気配のない女
・・・・Cは女の首筋に手をあてがい生きているのかを確かめる
かすかな心音がする
Cは ほっと胸を撫で下ろし生きている事に感謝する
良かった 生きていてくれて
Cは女を車に乗せ 急いで車を走らせた
この世界は空虚
なんて つまらないんだ これなら昔の方が良かった
あの頃は常に周りに誰かいて楽しかった 今とは比べ物にならない
あの頃に戻りたい
Cは女の無事を確かめると 用意していたテープで口と手足を拘束した
そして後部座席の足元に はめ込む様に女の体を押し込んだ
Cにとって病院の治療が終わり 解放された正常な世界は
つまらなく味気ないものだった
人との距離が縮まらない 仕事も上手くいかない
もともと Cはそんなに器用な人間ではなかった
それが拍車をかけCを追い詰めていく
時間は3分弱 誰にも見られていない
そんな状況は 車を運転するCの幻想をかき乱していく
すりこみ 総合失調症 人の悪意
色んなパーツが行動する事で そろい 極まさり完成していく
幻覚などの症状は 酒を飲み 酔っぱらっている状態に似ている
酔っ払いが それを楽しいと感じているのなら
幻覚を見ていたCも 幻覚の中で見る仲間たちと
それを楽しんでいたのかもしれない
Cにとって幻覚は つまらない世界から解放してくれる
唯一の手段だったのかもしれない
俺にあんな事をさせたのは俺じゃない 俺を治した誰かだ
俺を病院から出すべきじゃなかったんだ
そんな事を ブツブツとつぶやきながら あらかじめ用意していた
目的地に車を走らせる
不器用で単純なCが見る世界は虚無
その中で大事な幻覚を見る事の出来なくなった
Cに新たなる世界を与えるものは 行動でしか補えなく
形のない自分の世界を 形作るためCは必死だった