３時３２分 霊とは何か２

　　３時３２分　霊とは何か２

　女は精一杯の力でホームから飛び出した
　その姿は　まるで静止しているように　ゆっくり進む

　それは　よく見える　

　飛び出せば　もう後には戻れない
　もう　誰にも邪魔は出来ない　だから女は胸をなでおろしている
　もう終わり　悩む事もない　あとは死ぬだけで良い
　その時を待てば良い

　もう誰にも邪魔されない者が出す何とも言えない表情
　・・・・美しい
　人の狂喜と　はかなさがこの一瞬にある

　そこから解放される命　素直な表情　もう責める事の出来ない場所
　これが　人の命をかけた最後の顔というものか

　・・・・その瞬間　女の目からどんなモノが見えたのか

　・・・・気になる

　でも　そのタイミングでは早い

　案の定　女はつまずき前のめりに倒れる
　その後を電車が通過し
　両足を膝上２０センチのところで切断する

　苦痛に耐えながら吐き出す声が耳に響く
　それに　ぶざまな姿と表情　切断面　血　匂い

　その毒々しさに周りは目を伏せる

　すぐに処理班が現れる
　女の腕を後ろに回し　犯人のように取り押さえる

　正解だ

　今の女は猛獣と同じ　
　そして自分が望んだモノとは違う現実と痛みにパニックを起こし暴れる

　苦痛に反応する様に吹き出す汗　激しい鼻息　

　・・・・醜い　

　醜く見えるのは　命に余力が　まだあるからで
　生きている分　本人が選んだ美しさは消え失敗した姿を醜くさらす
　もともと人生とは醜いもの　
　でも女は　その醜さから逃げるために自殺を選んだ
　でも生きている

　これから　どうするつもりなのか・・・・
　・・・・女の心境を聞いてみたい


　暴れる女が　触るなと叫んでいる中
　誰かが太ももの内側を抑え止血している

　さらに救援隊が現れ　止血ベルトを足に巻き
　女をタンカーに乗せる
　手を縛り　シートをかぶせ　足を袋に入れ　ホームに移動する

　早い

　延命処置　事故マニュアル　死者を出したくない
　・・・・きっと　それ以外にも色んな処置をしているだろう

　あとは　女が出血量　ストレスに耐えれるか
　電車の底で跳ね回った足がうまく　つながるかだな

　周りはどうだ・・・・

　隣にいる友人は青ざめている

　・・・・強烈なストレスは五感などの能力をフルに高め
　些細な事でも高速で鮮明に情報を伝えただろう
　その分　友人は青ざめる

　そして　その経験は社会　経済　人間関係などの不安を連想させ
　全ての情報が津波の様に押し寄せ　見ている者にパニックを起こさせ
　そして　それは伝染する

　そして　その場にしゃがみ込み高速で情報を処理し安全を確保する

　・・・・しゃがみ込まない分　友人はましか